猫とはたらく:VOL.03「保護猫活動の担い手を増やし、保護猫団体を方向性をそろえる旗振り役を自らの仕事に」

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猫と一緒にはたらく職場を取材する「猫とはたらく」シリーズの開始から早5年半。忙しさにかまけて、前回から4年以上間が開いてしまいましたが、このたび一念発起いたしまして、いろんな「猫とはたらく」人々の話を取材する形へと拡張リスタートする次第となりました。

リスタートとなるvol.03では「推し活」で保護猫活動への支援ができるWebサービス「neco-note(ネコノート)」や、猫とともに暮らせる賃貸住宅とカフェ・キッチンスタジオが併設された猫フォスター型共同住宅「necotto Koshigaya」など、保護猫活動の“自続可能性”を高めるために、保護猫団体と協力して事業運営や企画立案などを行っている株式会社neconote(ネコノテ)の代表取締役・黛 純太さんにお話をうかがいました。

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黛 純太
株式会社neconote 代表取締役。保護猫業界の”自続可能性”を高めるため、保護猫団体と協力して企業のCSVをサポート。譲渡会プロデュース、保護猫団体の新規事業支援やPPP支援、保護猫共同住宅の企画運営など。保護猫シェルターに1年半住み込む経験も。ベジタリアン。


多くの保護猫団体とリレーションを持ちながら、従来の保護猫活動を拡張する新たな取り組みを手がけ、保護猫活動とビジネス視点を結びつける黛さん。昨年行われたピッチコンテスト「QWS STAGE #12」において優秀賞を受賞するなど、保護猫活動業界のキーパーソンの1人として注目を集めています。

人生のマインドセットを変えた、「にゃんぴー」との別れ

幼いころから保護犬猫と暮らす家庭で、4人兄弟の末っ子として育った黛さん。もっとも思い出深い猫が、6歳のころから飼い始めた「にゃんぴー」でした。にゃんぴーとの生活、そして別れは、現在の死生観、そして猫との関係性にも影響したと語ります。

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黛さん:一番思い出深いのは、物心ついたころから高校時代まで一緒に暮らしていた「みみ」ちゃん。膀胱にもともと障害があり、よくお漏らしをしてしまう猫で、あだ名はにゃんぴーでした。

子ども心によく覚えているのが、畳に飲み物をこぼしたとき、親にバレるのを恐れて「にゃんぴーがお漏らしをした」とウソをついたことです。案の定すぐバレてこっぴどく親に怒られましたが、猫を家族として認識していたがゆえに、兄弟のせいにするのと同じ感覚で、にゃんぴーのせいにしちゃおうと考えたんですね。にゃんぴーには悪いことをしましたが、思い返すと当時から猫を家族の一員だと感じていたことがわかります。

物心ついたころにはすでに祖父母は亡くなっていたため、初めて亡くした家族は、このにゃんぴーでした。胸にぽっかりと穴が空いてしまっていたところに、3.11(東日本大震災)が発生したんです。

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在りし日のにゃんぴー

毎日、死者が増えていき、2万人近くの方が亡くなって。その一方で、僕が心をこれだけ痛めているにゃんぴーの死は、数字の1にもならないというか、その数字には表れないという事実に、数字と現実とのギャップを感じたり、1にもならないにゃんぴーの死にこれだけの悲しみを感じるのだから、亡くなった1人に対してはどれだけの愛する人たちがいたのかと思うようになりました。

そこから、高校生なりに猫の命のこと、人生のこと、死生観が少しずつそれまでと変わっていきました。人生に対するマインドセットを変えた体験で、その後の人生にも影響したと思います。

「猫の問題=社会課題」という内なる発見

大学時代は「広告が好きで、『広告批評』『宣伝会議』『ブレーン』を毎号読み込んでいるような大学生でした」という黛さん。就職活動にOBから投げかけられた質問が「広告を作りたいという思い」と「猫への思い」とをシンクロさせるきっかけになります。

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黛さん:当時の自分の世代をターゲットにしたキャッチコピーが好きなキャッチコピーを作ったコピーライターのインタビューを読んで、ターゲティングやクリエーティブのベースとしてマーケティングがあると知り、広告を仕事にしたいと思って広告代理店に入社しようとしました。

OB訪問でエントリーシートを持って話を聞いてもらったとき、「何のために広告業界に行きたいのか」という質問をされました。そのときは、いろいろと答えたものの、問いに対する本質的な答えが出せなかったんです。帰り道にあの質問の答えは何なんだろうと考えたとき、ふっと「猫を助けよう」と思い至ったんです。好きな広告で大好きな猫を助けられたら、メチャメチャハッピーだと。

海外の広告賞でも、社会課題を解決へと導くムーブメントを作り出そうとする広告が評価されるトレンドがあったので、広告で社会課題を解決したいという思いは僕のなかにありました。けれど、広告が対象とする社会課題には、まだ猫が含まれていなかったんです。OB訪問で投げかけられた質問のおかげで、猫と社会課題とがピッタリと当てはまって「猫の殺処分をはじめとする猫にまつわる社会問題を広告で解決したい」という考えに行き着きました。それは今でも変わっていないです。

その僕の答えに対する、OBの方からのリアクションはイマイチでしたが(笑)、かえってそれが面白く感じて。僕がこれだけ納得していることが、なぜ理解されないのかと。じゃあ、どうやったら世の中に伝わるのだろうか、伝えるためには何が足りないのかを検証しようと、行動を始めました。


その行動とは、みずから保護猫団体へ電話やメールで問い合わせ、足を運んで直接話を聞くこと。保護活動の担い手からのリアルな声を通じて、共通の課題を抱えていると分かってきたといいます。


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黛さん:インタビューを通じて、保護猫団体同士の横のつながり不足をはじめ、資金不足、情報発信不足など同じことに困っていると知りました。そうであれば、横のつながりになる立場で共通課題を解決する、保護団体をサポートするポジションの人がいるべきなのでは、という仮説が確信に変わっていきました。

現在、200以上の保護猫団体と接点を持てているのはそのときの出会いや、つながりが広がった結果です。つながりをつくるなかで出会った、同じようなアクションをしている先輩方は、今では株式会社neconoteのクライアントになっています。

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直接聞いてしまうのが一番近道だし、こんなに確かな情報もないですよね。時間を経てもファクトとしていえることって、やっぱりリアルな体験からしか生まれないので、そのときの行動は今考えてもよかったと思いますね。

会社設立直前から始めた、1年半にわたる「保護猫シェルター住み込み生活」

新卒で広告会社へ入社し、2年後に「株式会社まめくらし」へ転職。コロナ禍によってオンラインでの保護猫譲渡会が急速に普及し、オンライン企画の提案・制作・現場での運営などを仕事の傍らで続けていた黛さん。2021年3月には保護猫のことに集中したいことから同社を退職し、保護猫に関する仕事を専門で行うフリーランスとして独立します。

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ネコリパブリック住み込み時代の、猫との一コマ

黛さん:会社を辞めて独立することをネコリパブリックの社長の河瀬さんに相談したら、「高円寺のネコリパブリックに住み込まないか」と提案されました。

眠るのは、ベッドとデスクがあるだけの部屋で、その部屋と別に猫の部屋は2部屋あります。朝起きたら、猫部屋を一巡して緊急事態が起きていないか確認します。ネコリパブリックのスタッフさんが10時にいらっしゃるので、それまでには出かける準備を済ませて出勤するようにしていました。日中は別の場所で仕事をしてから、19時ごろにシェルターへ帰宅。猫のごはんや投薬やトイレ掃除など、世話をして一日が終わるという生活を続けていました。

実際にやってみると、猫の好みや病状に合わせてどの猫にどのごはんを何グラムあげたらいいか、飲水量の管理やトイレの様子、飲ませなければならない薬がどれか、薬の保管場所はどこかなどなど、多数の猫の世話に必要な情報は多岐にわたり、とても簡単には共有できません。団体が抱える課題をなんとかしたいと思いつつも、どうにもできない現状を知ることができたと思います。

各団体が必要とする支援を正しく知るところから、保護猫団体の課題解決は始まる

保護猫活動の実情を肌身で体感した経験は、保護猫団体と協業するうえでのコミュニケーションにも生きています。保護猫団体の抱える課題は共通しているように見えて、課題をもたらす要因は多岐にわたります。同じシステムや課題解決方法を水平展開するのではなく、各団体の必要とするサポートを知るところから始める必要性を黛さんは語ります。

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黛さん:また、個別の課題をもたらす“変数”もたくさんあります。地域の方々の理解を得られないとか、多くの人が関わることで生じる人間関係の問題とか、資金が集まらないとか、毎日世話ができる人がいないとか、団体ごとにさまざまな変数が絡み合っています。保護猫団体へのサポートには、求められるものはもちろん、付き合い方も個々の団体で異なります。まずは求められる付き合い方と求めるものをヒアリングするところから、アプローチを始めるようにしています。

直接会いに行って、どれだけ普段その方々が目の前の猫たちに愛を注いでいるかを共感することだと思ってます。 注射1本打つのがどれだけ大変か、どれだけリスクか。それやらざるを得ない状況も共感できて初めて、会話ができるし何が足りないかを想像できます。共感の先に相手へのリスペクトがあるかどうかが、大切な部分なのかなと思っています。

違いが団体の魅力だったり、強みだったりするので、苦手な部分と表裏一体だと思うんです。そこが分かっているか分かっていないかは、ぜんぜん違う気がします。

団体間の価値観のミスマッチを超えて、無理やりつなぎ合わせる必要はないと思っています。間をつなぐというよりも、全体を同じ方向へと導く牧羊犬のような役割になっていけたらと思っています。同じ方向へと向いて進む集団のなかには、先行する団体も真ん中を走る団体も少し遅れながら来る団体、どれもあっていいし、プラスの相互作用も必ずあるはずです。それぞれの団体の能動性を鼓舞しながら、方向性をそろえる旗振り役を、これからも仕事としてやっていきたいです。

やるべきことは「保護猫活動を、一般化する」

保護猫や保護猫活動への認知は広がりつつあるものの、まだ一般化しているとはいえません。「猫が好きな、一部の人が担っている」というイメージを持たれている強いと指摘する黛さん。担い手を増やすために必要なアクションについて次のように語ってくれました。

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黛さん:保護猫団体の活動の担い手となっている方は50代、60代が多く、これから10年、20年と活動を続けるには若年層を増やさないとなりません。そこにこそ、ビジネスの手法が必要だと思っています。保護猫活動をけん引してきた先輩方が活躍されているうちに、若い世代の担い手が自発的に出てくれるような環境を構築し終えたいと思っています。

若い世代が、保護猫活動や団体に対して、どれだけ魅力を感じてくれるかって結構大事だと思うんです。それには何が必要かというと、時代や社会を読み解き、若い世代が何を考えているかを的確にキャッチアップする力です。

そこから得られたものと保護猫活動とをうまく掛け算したり、翻訳作業をしていくことが、保護猫団体が直面する現場から一歩離れた位置にいる立場の者として、忘れてはいけない視点だと思っています。

ソーシャルグッド(社会善)ではあるものの、それを前面に打ち出しすぎると、猫に対する思いが強い、熱量の高い人だけが行うことというイメージが強くなってしまうと思うんです。個人が手作りの焼き菓子をマーケットで売るとか、雑貨をネットショップで売るとか、その程度の気軽さで、もっと熱量が低くても参加できるようなものに保護猫活動を一般化したいですし、それが僕のやるべきことだと思っています。


保護猫活動の一般化を目指した猫の「推し活」サービス「neco-note」に続く新たな取り組みとして、2023年2月22日、推し猫グッズの売り上げで保護猫活動に”貢げる”オンラインショップ「neco-note shop」をローンチする黛さん。neco-noteに所属する猫たちをモチーフにしたグッズを購入できるショップで、利益の50%はモデルとなった猫に還元されます。

猫の推し活のすそ野を広げる施策となるよう、「デザインモチーフとしての猫が好き」「保護猫は知らなくても猫は好き」といった人にも満足してもらえる幅広い商品ラインナップを前提としているといいます。

黛さんのお話をうかがって感じたのは、保護猫活動の担い手となる人材の広がりは、保護猫活動とビジネス思考を両立できる人材が登場するところまで、ついに到達したという深い感慨であります。数年ごとに同じ地平から繰り返されるムーブメントからの脱却できる可能性を強く感じました。黛さんと株式会社neconoteの取り組みが、保護猫活動を助ける「猫の手」となるとともに、より多くの猫と人とを結ぶ手となるよう、心から願う次第であります。

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