2018年5月10日

『建築知識』を変えた“猫特集”(下)〜企画の作り方も編集会議も

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前回は、初の猫特集をきっかけに、猫を飼っていなかった編集部員がその後、猫を迎えることとなり、すっかり猫奴隷になってしまったという“変化”を紹介しました。でも、変わったのはそれだけではありません。『建築知識』という雑誌の企画の作り方をも変えてしまったのだといいます。さらに大きなその“変化”とは。今度こそ、引っぱらずにお伝えしますので、最後までどうぞご覧ください。

 

企画の作り方が、“猫以降”でガラリと変わった

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2017年9月発売の『猫のための家づくり』

そうこうして、発売された猫特集第1弾。その結果は、皆さまご存じの通り、バカ売れでありました。購入者における男女比は、普段の特集のときと異なり、女性読者が大幅に増えたといいます。また。どのくらいのレベルの売れ行きだったかというと、2005年の構造計算書偽造問題の影響で、2006年に改正、2007年6月に施行された建築基準法に対応し、最高の売れ行きを記録した2007年9月号「改正法に負けるな!必ず通る『確認申請』最新マニュアル」に次ぐレベルだったそうです。そして、この売れ行きは『建築知識』の作り方にも影響を与えます。

「『建築知識』は“建築に関わる人が読む本”で“建築に関わっている人たちが解説する”という仕組みが、この雑誌にありましたが、そこを大きく変えました。解説する側を、建築とは違うジャンルのプロに変えたらいいんじゃないかと。実際に建築業界でもいま起こっているのが、業務の専門化です。例えば、庭作りをするのは『ランドスケープデザイナー』になってきて、設計者が担当する仕事ではなくなっています。また、建築の一番大事な部分の構造設計も『構造設計者』という専門家がいます。建築にまつわるあらゆるものに、設計者よりも詳しい専門家がいるようになってきたにもかかわらず、『私は家に関するすべての専門家』と思い込んでいる設計者がいるとしたらそれは間違いだろうと。キッチンのことであれば、それこそ料理研究家に聞いたほうが、建築に関わるプロが読んでも役立つ内容になるんじゃないかと、そう、考え方を変えるようになりました。“執筆者を、設計者ではない人に変える”という発想は、猫特集のときに気づかされたなと思っています」(三輪編集長)

他ジャンルのプロの視点を入れ、既存の読者にも役立つ内容に

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『建築知識』編集長で同社副社長の三輪氏

設計者側には、「そのような専門家たちに、建築の立場から話を聞くのは違う」と感じていた人も少なくなかったと、三輪編集長はいいます。しかし、そのような声に流されなかったのには、ある狙いがありました。

「そのような各ジャンルの専門家たちを立てることによって、もっと建築は良くなるのではないか、というのが一番の動機です。猫の行動学者の人に聞いて、それを建築に落とすのも同じ仕組みでした。読者層を思い切ってずらそうという狙いもありましたが、それ以上に、解説してもらう人を変えることによって、既存の読者にもっと役に立つ建築雑誌にしたい、という狙いを重視しています」(三輪編集長)

2012年に、表紙にルパン三世(1st版)やゴルゴ13が登場して、話題をさらったこともありましたが、当時の誌面は極めてオーソドックスな建築特集。表紙デザインをガラリと変えたのは、書店向けのコミュニケーションだったと言います。猫特集以降は、表紙ではなく中身が変わっていったのです。

“お通夜みたいな編集会議”も変わった

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2回目の猫特集となった『建築知識』2018年2月号

猫特集成功の後、企画を生み出す場・編集会議の雰囲気も変わり、「建築的な特集テーマでも、楽しいことをしなくちゃ!」という気持ちが生まれてきたと、三輪さんは言います。

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「“生活者”という意味では、編集部も読者も全員対等なので、その視点に立てたということだと思います。今までは、その視点の少し上を目指さなければならない、という意識が強すぎたんですね。もっと“下世話”で良かった。猫特集を世に出して、世間に受け入れられたことで『これくらいやってもいいんだな!』みたいな感覚が生まれました。そのせいもあって、編集会議自体も盛り上がるようになりました。それまでは、お通夜みたいな会議でしたからね。私と担当者が1対1で話し合ってるだけで、周りは誰も関心を持たないという…」(三輪編集長)

その結果として生まれた一つが、2017年12月号の特集「建築基準法キャラクター図鑑」です。そして、今年の1月号では「長生き」、2月号は再び「猫」、4月号では「料理」と、次々と建築業界以外でも興味を惹かれる特集が生まれていったのです。

 

プロが持つ知識を、分かりやすく伝える

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会議室の棚にも、猫本のほか、さまざまなジャンルの書籍が並ぶ

月刊誌『建築知識』を発行するエクスナレッジは、その沿革を辿ると建築専門出版社です。書籍のラインナップを見ると、建築建築したものばかりではなく、さまざまなジャンルで、一般読者向けの本も数多く出版されています。専門出版社が建築の専門家向けではなく、一般エンドユーザー向けの書籍まで作るのは、同業のなかでは珍しいと、三輪さんはいいます。前提となる知識や興味の度合い、情報の必要性が異なる2つの読者層。この書籍作りで培った経験は、雑誌の『建築知識』作りにどう生きているのでしょうか?

「目指すのは、プロが持っている知識を、われわれが読者に分かりやすく伝えることで、建築を専門としない一般の人が“住む・建てる”ときに役立つ有用な知識にしたい、という点です。そのことを常に頭に入れていろんな本を作っています。『建築知識』で、猫も住まいの主役と捉えて、人だけでなく猫にとっての家の住み心地というアイデアを伝える方法というテーマを実現するときも、今までやろうとしていた“専門家の持つ知識を、一般の人に役立つ知識にする”経験が役立って、すごくうまく形にできたんじゃないかなと思っています」

最後に、今後の展望とともに、読者に向けてのメッセージをいただきました。

「本誌の執筆者陣は設計者だけではなく、さまざまなジャンルの生活のプロと言える人たちです。これからの『建築知識』は、そのプロたちが『実際に住み心地のいい家とは何か』を解説して、プロが手がけたり監修した実際の例を見ながら建築を学ぶものになっていきます。それによって、今以上に一般の人にも読みやすいもの、役に立つものになっていくのかなと思っています」

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左から、三輪編集長、編集部筒井氏、松尾氏、山川氏

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前後篇にわたってお届けしました、「『建築知識』ができるまで」。その一端ではありましたが、あの猫企画が生まれた背景と、本誌の作り方に与えた影響とをうかがい知ることができました。猫と建築というマリアージュは、他の分野にも参考になるヒントが詰まっていたように思います。猫ジャーナルとしては、これからも目を皿のようにいたしまして、猫と人との関係性を豊かにする事例を探し、取材し、紹介をしていきたいと思います。ちなみに、次なる猫×建築の企画も予定中とのことでしたので、発刊の際にはまた紹介できることを、心より願う次第であります。

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