昨日お届けしました、前篇に続き、本日はその後篇をお送りします。野生番組らしからぬ撮れ高から、手探りのなか生まれた、2週連続猫特集。行けば撮れる猫の話だけですと、他の野生動物を撮影するのとでは、どう違うか分かりませんので、同番組担当ディレクターの原田美奈子さん(写真左)、プロデューサーの菊池哲理さん(写真右)へ、そのあたりも伺ってみました。
猫の撮影は”ドラマを撮っているような感覚”
「アラビアオオカミや、ホッキョクグマなどの撮影もやっていましたが、(撮影しようとしても)まず出会えません。1日3分カメラを回せればいいほうで、イスラエルで撮影したオオカミのときは、毎日200kmくらい移動しながら探しても、まったく会えないこともありました。他のディレクターでは、ロケに20日も費やしたのに、目的の動物に出会えないというすごい経験をしている人もいます。そういうときは、現場で冷や汗をかいています(笑)」(原田さん)
「試写のときに『番組の尺にはなってるけど、スカスカな感じがする』というのは、よくあることなんですよ。いかに情報を足したりするのが、試写での大変なところなんですが、2017年の猫特集のときはまったく逆で、全部面白くて、明らかにオーバーしているという状況でした」(菊池さん)
たっぷり撮ったのに、飽きずに見られる猫動画。その理由は、原田さんの言葉のなかに見つかりました。
「2016年の猫回の、最初の試写のときに『野生動物だと、ここまで表情がしっかりと見られないよね』という感想をもらいました。他の野生動物と同じように撮れる表情以外に、例えば”猫越しに見る猫”の画とか。猫同士の関係性も、ドラマみたいに撮れちゃうんですね。猫の場合。あの面白さは、ちょっと野生動物ではないもので、本当にドラマを撮っているような感覚でした」(原田さん)
プロデューサーが守り続ける”「ダーウィンが来た!」らしさ”
「ダーウィンが来た!」を担当するディレクターは原田さんのほかにも複数いまして、一人のディレクターが制作を担当する本数は、年間平均3本程度。リサーチに1か月、ロケに1か月、そして編集に1か月と、どんなに効率良く手がけても1本作るのには3か月かかるとのこと。原田さん曰く「たまに海外へロケに行って、BBCのチームとすれ違ったりもするんですけど、『お前ら、よくもまあ、毎週やってるよな』と驚かれる」のだそうです。プロデューサーの役割は、その個性豊かなディレクターたちが作る”毛色の違う”ものを、「ダーウィンが来た!」という番組として整えてくれること、と原田さんは言います。プロデューサーの菊池さんは「ダーウィンが来た!」”らしさ”とは何かについて、次のように語ります。
「先ほどお話ししたように、学術的な裏付けが大前提としてあったうえで、『動物の生態がきっちり撮れている』ことだと思うんです。生態というのは、”狩りのすごい技”だったり、”繁殖のときの面白いダンス”だったり、いろんなパターンがありますが、見た目の面白さのような表面的な部分ではなく、つまるところ、どんな生き物であれ、どんな場所であれ、命をつなぐために一生懸命やっている姿。そういうひたむきな生態行動が映像として表現でき、しかも学術的な裏付けでの理由や説明も、きっちりと映像で描けていることが、『ダーウィンが来た!』の最大公約数です。それが撮れているかどうか、というところでいつも判断しています」(菊池さん)
2017年の猫特集で”最大公約数”として描かれたのが、前篇の「エクスカーション(若オスの旅)」、後篇の「オス猫の子育て行動」だったわけです。しかし、原田さんの企画が通った時点では、実は「エクスカーション」だけが主軸だったと言うのです。その理由はいったい何だったのでしょうか?
取材で初めて確認された、驚きの大発見
「2016年の提案時にはコムギを主人公にして”エクスカーション”を主題にした企画を書いていましたが、実はそのときには、コムギは母猫のところにずっといて、旅に出る様子がなかったんです。書きながら『ちゃんと旅に出るんだろうか?』と心配していました(笑)。コムギは当時もうすぐ2歳でしたが、他のオスは1歳くらいで旅に出るのが普通だったので、2017年になって『今年はさすがに旅に出るだろう』と再度企画を提案しました。予想通りの映像が撮れるか分からないまま、撮影のために相島へ渡ったら、ケンカしたりマーキングしたりするコムギがいたんです。前年にはそんな行動は見せなかったのに、見違えるような姿になっていてビックリしました」(原田さん)
つまり、後篇の主題だったコムギの子育てについては、企画中の段階ではまったく触れられていなかったわけです。山根先生も、子育てについては今回の取材と映像で初めて確認した、新しく見つかった生態だったのです。「『これはすごい発見で、(前篇とは)別の話になっているから、後篇にしよう』となりました」と、原田さんは語りました。後篇の主題となった、コムギが父親として、自らの子どもを他のオスから守るという「ネコの常識を覆す、驚きの大発見」は、撮影のさなかで明らかになった、想定外のことだったのです。また、後篇で登場した、かわいい子猫たちに関しての、こんな裏話も教えていただきました。
「番組では取り上げていないのですが、コムギと同じ歳で、ライバル関係の『ハク』というオスの飼い猫がいます。メルとヨゴミが産んだ7匹の子猫たちのなかに、1匹だけ、ハクにそっくりな顔の子がいたんです。カメラマンや私もみんなで『これは絶対ハクの子だ』と言ってました。山根先生はちょっと疑っていましたが、DNA鑑定でその子はハクの子だと判明しました。ライバル同士で、同じ母猫から子猫が生まれているんです」(原田さん)
番組では「7匹のうち少なくとも6匹はコムギの子の可能性が…」とのナレーションでの説明がありましたが、コムギの子ではなかった茶トラの1匹は、ライバル・ハクの子だったわけです。本編映像はすでにご覧いただいたうえに、HDDに保存、もしくはBlu-rayディスクにバックアップ済かと思いますので、子猫たちを見返していただければ幸いです。
次なる猫特集の構想は…
2017年の放送後の反響では、『これからもずっと追いかけてくれ』といった、うれしい言葉がすごく多かったと言います。過去の傾向に基づきますと、今年もまた11月ごろに猫回が…と、お気楽な視聴者視点では勝手に期待してしまうわけですが、そのあたりはどうなんでしょうか。ミーハー心と猫探究心とを存分に発揮して、読者に代わりまして伺いました。
「同じことをやっているのでは(番組企画の)提案は通らないですし、視聴者も飽きちゃいますからね。2017年の放送では、去年紹介した、お母さん猫たちに触れる時間が全然なかったんですけれども、お母さんたちも、今年もけっこう面白いことをやっていますので、着々と素材をためてはいます。また何か、番組にできることが見つかればいいなと考えています。それと、41種類いる野生のネコ科動物は、まだ数種類しか撮れていません。撮ってみたいネコ科動物がいっぱいいます」(原田さん)
「新しいことをやらなくちゃいけないっていうのは、テレビの宿命じゃないですか。だから、我々も同じ切り口では(番組に)したくはないんです。切り口を変えてやれればいいなとは思っています」(菊池さん)
そのお話のなかで、まだ未定ではありますが、次なる「猫」をテーマにした番組については、別のディレクターが「マヌルネコ」の取材を行ったところだ、という情報も教えていただきました。近々、マヌルネコ回が放送されるかもしれませんので、猫ジャーナル読者諸兄におかれましては、レコーダーHDD残量のチェックとアンテナの調子をよくご確認のうえ、万全の態勢をとっていただければと思います。
菊池さんからのお話のなかで「イエネコへの関心がやはり一番高いんですが、それ以外でも『猫というのはやっぱり面白い』というのは、スタッフみんなが今回の番組作りで再確認しました」という言葉は、あれほど日々動物の生態を見ている方々でも、再発見があるということを窺える、大変印象深いものでした。次なる猫特集でも、猫のすごい生態や、人が見られない姿、そして新しい発見を視聴者に届けてくれるものと願っております。
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前後篇にわたってお届けしました、「クローズアップダーウィンが来た!」。私が猫にかまけてニヘラニヘラと眺めている番組の裏側には、数カ月に及ぶスタッフの方々の苦労がありました。番組の核となる部分を守る”選球眼”が、その品質を支えていることが伺えました。猫コンテンツを消費する立場としては、いいものとそうでないものとを見極める目が、必要になってくるのではないかと感じました。
最後に、相島の猫たちを取材しながら、原田さんはこのようなことを感じたと言います。
「相島の猫は、島の人にとっては空気のような存在です。だからネコたちは干渉され過ぎずに、すごくのびのびと、健康そうに生きているんです。島の人同士の関係も、すごくすてきで、それが、猫たちの生活にもそのまま反映されているのかなと思います」
猫ジャーナルとしても「猫を見れば飼われ方が分かる」「猫を見ればその飼い主や、接する人たちの人となりが見える」を身上としまして、コンテンツの質を高めるべく、努力して参りたいと気持ちを新たにした次第であります。
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